テクニカルダイバー加藤大典の世界水中探検記 ミクロネシア チューク編

テクニカルダイバー加藤大典の世界水中探検記 

ミクロネシア チューク編

 

~なぜ沈没船に潜るのか~

加藤大典は、水中世界に魅せられて25年が経つ。いまだ水中への好奇心は尽きない。

今は、一般的なダイビングの限界を超えるテクニカルダイビングを教えるダイビングインストラクターとして、ダイビング教育機関とダイビングショップの代表を務めている。

 

今回、加藤はミクロネシアのチュークにやってきた。ここチュークは、第二次世界大戦の激戦区で、大日本帝国の大きな基地や日本人街があった場所だ。その影響もあり、現地の言葉にたくさんの日本の言葉が残っている。先生はセンセイで、ドーナツはテンプラだ。

 

この海にはたくさんの日本の船や飛行機が沈んでいる。

戦争、過去の忌まわしい歴史に、そしてたくさんの戦死者が眠る場所に潜る事は、不謹慎と考える方たちもたくさんいるであろう。加藤も洞窟ダイビングは行っていても、レックダイビングつまり沈没船などに潜ることには抵抗があった。しかし、10年前にここに潜り、その価値観は変わったのだ。日本人である僕が、自分たちの国の歴史に背を向けていてはいけない。そして、この場所に訪れることが、戦争で亡くなった方たちへの慰霊にもなるとも感じている。

歴史に対して、真摯な気持ちで考えているが、心が動かされるのは水中探検をしたいという欲望だ。興味があるものに関わることで何かが見えてくるかもしれない。

 

~探検の準備~
テクニカルダイビングの探検にでるためには、たくさんの器材を運搬しなくてはならない。今回も必要最小限に抑えてもすべての荷物の総重量は60キロ。ミクロネシアは荷物制限も厳しい為、超過料金もかかるが仕方ない。シリンダーや二酸化炭素吸収剤などは現地で手配するにしても、命を預けるダイビング器材をレンタルすることは怖いし、加藤が使用する特殊な器材は現地にもレンタルがない。

 

飛行機への預けの荷物はいくつかの大型のダイビング用キャリーバッグを預ける。しかし、ダイビングの精密機械は機内へ持ち込みをしなくてはならない。テクニカルダイビングでは、ソフトウェアでダイビングプランニングを行うため、パソコンなども必用なアイテムで、機内持ち込みもなかなかのボリュームになる。

このときに役立つのが、StreamTrailのTRAVELALLの55リットルだ。まず背中に背負え、緩衝材も入っているので、大事な荷物を守ってもくれる。またパスポートケースやCREEL DXなど、バッグ類はすべてStreamTrailにこだわっている。StreamTrailに出会うまで満足のいく運搬アイテムがなく困っていたからこのようなアイテムがでてきたことは感謝でしかない。

 

~なぜ水中探検にテクニカルダイビングを活用するのか~
テクニカルダイビングは、長時間、大深度や閉鎖環境へのダイビングを行う。長時間、高気圧下で呼吸を行っていると、身体には多くのガスが溶け込んでいく。これを原因として、ガス中毒やダイビング後の潜水障害に罹ることがある。これを防ぐため、一般的なダイビングでは時間と水深の厳しい制限を設けることで安全性を確保している。

もちろんテクニカルダイビングにも制限はあるが、その範囲は一般的なものと比較にならないほど広範囲になる。よって水中探検にはテクニカルダイビングの手順はマストというわけだ。

ここで勘違いをしてほしくないのは、テクニカルダイビングは、決して無謀で危険なだけの特攻野郎の遊びではない。緻密に計算されたダイビングプランとトレーニングで熟達した能力を活かし、生きて帰ることを一番に考えて潜る遊びだ。とはいえ一般のダイビングと比べリスクが高いことは間違いない。

 

~この探検にサイドマウントリブリーザーを選んだ訳~

また長く潜るためには、たくさんの呼吸ガスが必要となる。通常のダイビングでは、背中にひとつのシリンダーを背負って潜る。これはバックマウントと呼ばれている。このバックマウントにダブルシリンダーつまりふたつのシリンダーを連結して背負ってガスボリュームを増やす方法がテクニカルダイビングのトラディッショナルな方法だ。長年、加藤もこの方法でいろいろな場所を探索してきた。

6年前からシリンダーを身体の左右に取り付けるサイドマウントというスタイルを用いている。なぜそのような変わったスタイルを導入したかというと、サイドマウントなら背中に装備がないので、これまでバックマウントでは狭くて通過できなかったところを潜り抜けることができ、器材を障害物で損傷することも防いでくれる。背中の器材は閉鎖環境ではぶつけやすいのだ。さらに水中探検の範囲を拡張することができる。洞窟潜水のメッカ、メキシコのセノーテではこのスタイルがいまや主流となっているぐらいだ。

テクニカルも含め一般的なダイビング装備は、オープンサーキットといわれる吸った呼吸ガスを水中へはき捨てるシステムを使用している。はき捨てるからたくさんのガスを必要とする。そこで呼吸ガスを再利用する別のスタイルもある。通称リブリーザーといわれるクローズドサーキットといわれるシステムだ。詳しい説明はまた別の機会にしたいと思うが、吸った呼吸ガスをもう一度システムに戻して濾過して再利用するのだ。つまり泡がでない。
リブリーザーの主流は、バックマウントつまり背中に背負うスタイルであるが、最近ではサイドマウントリブリーザーというタイプがでてきた。加藤はこれに可能性を感じた。背中に器材がなく、泡も出ない。閉鎖環境を探検するのには最高ではないかと。

 

今回のチュークの沈没船探検で、サイドマウントリブリーザーを採用した理由は三つある。

第一の理由はコストの問題である。チュークの沈船は水深60mを越えることもある。このような場所では、ヘリウムガスを混合したトライミクスという混合ガスを使用するのだが、このヘリウムがとても希少で高価なものだ。使い捨てるオープンサーキットよりも再利用するリブリーザーのほうが呼吸ガスのコストをセーブすることができる。

そして第二の理由は、閉鎖環境でオープンサーキットから排気される泡が天井にあたると、天井の崩落やパーコレーションと呼ばれる現象で付着物が水中に舞い視界不良や視界ゼロになることもある。また天井に溜まっていた油が海中に流れ出ることもあるのだ。リブリーザーはより環境に配慮することができる。

第三の理由は、前述の理由で閉鎖環境に入るには個人的にサイドマウントを好んでいるので、この探検は泡の出ないサイドマウントリブリーザーを選択した。

 

しかし、このサイドマウントリブリーザーはそう簡単ではない。これは装備がより複雑で、装着手順や操作にもそれ相当のトレーニングが必要だ。また両サイドに違うバランスの装備があるので左右バランスをとるためにはシステムの理解が不可欠である。つまりとてもめんどくさい代物であることもお伝えしておきたい。

 

~水中探検のはじまり~

今回の旅では、この地に関わるさまざまな人に再開することができた。古くからの友人でチュークのレックの写真集もだしている水中写真家である古見きゅう氏が撮影にきていた。二日ほど撮影に同行し、ダイビングを一緒に行うことができた。また以前にテクニカルガイドとしてチュークに住んでいたロブ、ホテルにあるダイブショップのデビット、コーキー、ジョン、テノ。そして今回、2週間の探検とトレーニングを一緒に行う現地ダイビングショップ、トレージャーズのガイド、横田氏と海野氏。うれしい再開をスタートに探検の旅が始まる。

 

今回、探検したレックは、山霧丸、平安丸、伯耆丸、伊号第百六十九潜水艦、乾祥丸、清澄丸、日豊丸、神国丸、二式水戦、愛国丸、PUGH、長野丸の12箇所に22ダイブを行った。

 

はじめの二日間は、写真家古見きゅう氏の撮影に同行したのだが、いつもみている沈船を写真家がどう見ているのか眺めているのが楽しかった。また撮影のため、命をかけて行うプロフェッショリズムを感じることができた。生きて帰ることを目標とするテクニカルダイバーとの違いを感じた二日間だった。その後は、沈船内部へのぺネトレーションとミックスガスを使用したディープダイビングを主に行った。いくのかのレックダイビングのことをここに書き留めた。

 

~伊号第百六十九潜水艦~

水深40mに沈む潜水艦伊号は、全長100mを超える。船首部分は原型をとどめていなかった。チュークでは唯一の潜水艦だ。狭いハッチから進入すると細長い通路が続いていた。真珠湾攻撃にも参戦しているそうだ。

 

~平安丸~

もっとも今回探査したのが、平安丸。全長150mを超え、チュークでは最も大きい沈船だ。トップは水深12mと浅く横倒しになっている。船体にはサンゴがとても育っている。ボトムは30mを超えている。この大型の船は、船尾側の水深30mに巨大な魚雷の穴が開いており、そこからぺネトレができる。横倒しの船は、船内の階層が横なので、縦横の移動が多くジグザグに奥へと進んでいく。横倒しの船は、機関室も階段もバスタブもすべて横向きなので、元の立体図をイメージしながら配置を確認していくことになる。70年前の沈船にもぐって驚くのが、当時の書籍が、そのまま残っていて、文字も普通に読めることだ。しかしとてもデリケートなものなので、ものすごく慎重に触れなければならない。文字を読み、当時この船でこれを読んでいた兵士の姿を思い浮かべ涙がでた。

 

~愛国丸~

船体の半分は爆破で損傷している船。爆撃の生々しさを感じる船だ。この船は水深が深く、デッキで水深45m、船倉のボトムは水深60mを超えてしまう。今回のダイビングは最大水深60m。ミックスガスであるトライミクスの出番だ。通常のダイビングで大深度に潜ると窒素の影響によりリスクが高くなる。リスクを最小限に抑えることがテクニカルダイビングの考え方だからミックスガスを使用する。60mの船倉に入ってみる。一気に視界がなくなり茶色く濁っていてとても不気味な雰囲気であった。

 

~長野丸~

船の近くまで来ると重油のにおいがきつい。長野丸からもれ出ているのだと思われる。古見きゅう氏の写真集の表紙にもなっている船で外観もとても美しい。船底は70mを超える深度だ。深度が深いため、サンゴなどの付着物も少ない。潜降をはじめると、シルバーチップシャークとグレイリーフシャークが、長野丸の周りを旋回して歓迎してくれている。スキューバダイバーを襲う危険なサメは聞いたことがない。水中で漁をしているなら血の匂いに興奮し襲ってくることはあるが、私たちは漁をしないので危険を感じることはない。深度をさげていくと船のシルエットが鮮明に浮かび上がってくる。今回も60mの船倉に入った。積み込まれているトラック、そしてその下にある潰れかかったトラックをみる。今回、僕の水中カメラは使えず、借りたカメラで撮影する。60mでシャッターを押すと使い込まれた防水ケースのボタンのスプリングが弱っているのか戻ってこなくなり撮影終了。日本のどの自動車メーカーのトラックか知りたくなった。船倉から浮上し次は50mの船内をぺネトレーションを試みる。船内はとても広く明るい。また探検をしたい船の一つだ。

 

~旅を終えて~

何度か通っているチュークであるが、まだまだ興味が尽きない。今回は現地ガイドの横田氏と海野氏にテクニカルダイビングの方法を伝授しつつ、その実践としての探検でもあった。今回、現地に頼れる良き仲間ができた。これから現地の受入態勢がさらに整えば、もっと範囲を広げた探検が可能になるであろう。次回のチューク探検に向けて準備を進めていきたい。探検の旅は続く。

 

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