夏の汗だく神戸、ぶらり紀行(二日目)

筆者にとって人生二度目の神戸の訪問は、どぎつい夜の喧噪にギョッとしながらも、一歩街に踏み出してみれば、直情的で人間味あふれる土地の人たちの情緒に触れた穏やかな前夜祭から始まった。今日はその翌日の話である。

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たしかこの街に前回来たときは、去年の12月だったと思う。

北野という異人館の並ぶどこか日本離れした住宅街を散策し、六甲の豊かな山景を背後にしながら、どういうわけか「だめよだめよ」という当時の流行語ともなったフレーズを、一文字ずつ健気にスタンプを押して集める企画に参加させられたりもした。

洒落た店が多い。雑貨や洋服を売る店にも、垢抜けた港町風情が漂う。

たまに不気味な剥製の並ぶ洋館があったり、かと思えば日本ではめったに手に入らない昆虫標本を並べる店もあったり、やることなすことすべてが目新しかったのを記憶している。

季節が変わって今は夏。この日は全国的に猛暑で神戸の街も最高気温が35度を超えた。

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アーケード街は確かこっちだったかなと、さして古くもない記憶を辿りながら進むと、なんだかよくわからない、ディズニーシーにありそうな、とりあえず洋風にしつらえました、といった建物が目にはいる。

ブティックショップが入っているようだ。この「虚をつく」ところが、そう、神戸の神戸たる所以である。

その脇を通り抜けると、なんとも幅の広い横断歩道が。

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うーん、ここまで道路全体を覆われると、もはや横断歩道というより歩行者天国に近いような。

その脇を「三宮センター街」なるものを抜けて歩く。途中涼をとるために、氷漬けの生け花があった。

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通りが交差するところに几帳面においてある。まだ午前であるが、土曜の朝から買い出しにきたのか街の人たちが物珍しそうに氷の表面に手を触れ、「ヒィッ」といった一様な反応を示してまたどこかへ去って行った。

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そりゃ、こうも暑けりゃ、目もまわるわなぁ。。気温はすでに37度。

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半ばやけくそになって、元町駅から歩いてすぐ、名の知られたパン屋で朝飯を調達。

個人的には「鮭とごろごろポテト」という漫画のような名前のパンが気になったが、朝っぱらから胃の中をごろごろさせるにはいくまいと、代わりにフランスパンにレモンクリームがはさんであるものを一つ買った。

できたてのフランスパンになじんだ爽やかなレモンクリームが、ほどよい酸味とともに食欲を刺激してくる。

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我々はさらに大丸の脇を通り抜けると、石造りでできた関西方面のあまり見慣れない銀行の建物が並ぶ。

かの万俵銀行があったのも、きっとこの辺りなのだろう。どこか丸の内界隈に似ている。

さらに西へ5分ほど歩き「栄町」という港町として隆盛を極めた時代の面影を残す古い通りに差し掛かると、大正から昭和初期の趣を残す古びたコンクリート製の建物が注意を引いた。

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「栄町ビルディング」と読める。ロゴも古めかしいゴシック体で、さえない司法書士が出てくるドラマとかで撮影されそうな印象がある。

いっそのこと「ビルヂング」とすればいかがなものか。

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うーん、これまた田舎の校舎か町役場のような建物で、通路も人がすれ違うのもぎりぎりといった感じである。

狭い廊下を進むとどこかの会社の事務所や洋服屋、喫茶店が同居しているようだ。だがしかし、どこもまだ店開きとなっておらず、おそらく午後からぼちぼち営業しはじめるのだろう。

まるで秘密基地のようだ。誤解がないように言っておきますが、これは不法侵入ではありません。れっきとした通行人用の通路なのです。

しかしなんともまあ狭い出口から忍びの者のように出てみるわけだが、これは宅配便のお兄さんも随分骨を折られることだろう。

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愛用のランドブリッジもぎりぎりの幅といったところか。

さて気を取り直し、もう一度アーケード街に戻ると、ちょうどかけっこしていた中学生と思しき子供たちに出くわした。

「どこかおもしろい店はないかな」と聞いたら、恥ずかしそうに人差し指を挙げ「あっち」と通りの先を指さす。

案内されたところは猫カフェならず、フクロウカフェの「ふくろうの家族」という店だった。

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うーん??なんだこの強烈なフクロウの写真は。

とにかく強烈に興味をひかれ、店内に入ってみると入口付近に券売機があり、そこでソフトドリンク付きで入場料1,000円を払うという仕組みのようだ。

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まるで陪審員のように立ち並ぶフクロウたちを前に少しおどおどしながら、かわいらしい女性の店員さんに彼らについていろいろ教えてもらった。

日本のフクロウは鳥獣保護法などで保護されているため購入できず、欲しいのであれば外国産のフクロウをブリーダーから直接買い付ける必要があるそうだ。

飼育方法については、犬や猫と違って散歩はたまに日光浴させる程度でよく、食べるものといえばそれはもう猛禽類なのでネズミや鳥を食べる生き物ですからエサは肉ですよ、と。

え。そんなに簡単に言いますけれども、お姉さん、ひょっとしてこの子たちにネズミや鳥を与えているのですか?

なんてとても怖くて聞けず、(おそらく別の食肉用の切れ端とかだと勝手に想像しているのだが)、まあまあ、そのあたりはうやむやにして、さらに説明を頂く。

なんでもミミズクとフクロウの違いは耳があるかないかなんだそうだが、写真でもご覧の通り、耳っぽいものがあるフクロウもいる・・・(この辺り、実はけっこういいかげんである。)

オーナーがつけた印象的な名札があるけれども、実のところフクロウは何かと謎が多く、雄か雌かはDNA鑑定しないと分からないらしい・・・!

もっとも卵を産めば雌と特定できるのだが、こうしてブリーダー経由で手に入るフクロウたちは、残念ながらめったに産卵しないようだ。

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「タイガ」という名前であっても、実際には女の子なのかもしれないのです。

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これもフクロウの一種です。人相の悪いひよこ饅頭にしかみえない。

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ウインクありがとうございます。

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ほんまにこんな風に見てくるとです。

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どうでもいいですが、鳥好きだった亡き祖父に似ています。

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睡眠中でなければ、そっと指の背の部分で二度ほど頭をなでてみる。
人慣れしているのか、存外おとなしくこうべを垂れる。

室内で泣いているのは子供のフクロウだけで、総じて静かな環境である。

ただ唯一、ヤマト宅急便のクール便が届いたとき、カバンがアルミ製の銀色にきらきら光っており、それに一斉に反応してばたついたのには驚いた。

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翼を広げると2mを超えるものも。さすがに猛禽類のことだけはある。

さて、人生初のフクロウカフェをおいとまし、次に向かうは

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今回どうしても行きたかった、洋食屋「双平」さん。

仲睦まじいご夫婦が経営されおり、半年前にも一度ここに訪れたことがある。

きっかけはとある旅行ガイドブックなのだが、そこでは「ミンチカツ」の特集が組まれており、まっさきにあげられていた店がここだ。

東京では「メンチカツ」というが、どうやら関西では「ミンチカツ」というらしい。

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ジャーン(ご飯少な目)。

ミンチカツ定食はAとBとありそれぞれ800円と850円。

「違いはなんですか?」

とおかみさんに聞くと、

「Aはカツが2枚、Bは3枚だよ」

とのこと。

どう考えてもBの方がお得と思ったが、ここは限られた滞在期間、数ある飲食店にトライしたいという思いをおかみさんに伝え、Aの方でなるべくごはんを少な目にしてほしいと頼んだら、笑って許してくれた。

肉はもちろん神戸牛。作り手の几帳面さを感じさせるサクッとした衣に包まれた肉からは、箸を通すと「じゅわっ」と肉汁が出てくる。
実にうまい!

タレについてはどうだろう?
聞けばご主人が何時間もかけて煮込んだ特性のタレのようで、これがまた野菜本来がもつほどよい甘さが肉にあい、食欲をそそる。

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「どこから来たの?」

ときかれ、東京です、と答えると、あらびっくり。ご夫婦は元々20年ほど前に東京でご商売をやられていたとか。

さらにはご主人のお兄さんが東京で絵を描かれており、メニューに書かれたやわらかいタッチの水彩画はお兄さんによる直筆のよう。

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しかしこのご主人もなかなか芸の豊かな方で、なんとこの店の内装はすべてご主人が自ら手がけられたとか。

うーん、さすがです。

アンティーク調のおもちゃも飾られており、手間暇かけて1つ1つ作られてきた味わいのある店だった。

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話も盛り上がり、常連さんとおぼしきお客さんたちのにこやかな笑顔に囲まれて、記念にぱしゃりと写真を1枚。

めがねもおしゃれなご夫婦。

気前よくわざわざ厨房、カウンターから出てきて撮影にご協力下さいました。

地元の人が通うおいしい食事処を神戸でお探しの方は、まずはこの双平さんを訪れてみてはいかがでしょうか。

洋食屋 双平SO-HEY
電話番号:078-393-3839
営業時間:11時~17時30分 ランチ営業、日曜営業(定休日は水曜日)
住所:兵庫県神戸市中央区栄町通2-9-4 川泰ビル1F

 

さて昼も過ぎたこともあり、午前中に一度立ち寄った栄町通りにある秘密基地のような建物「栄町ビルディング」に再度訪れてみた。

いったいこのうさんくさい(失礼)建物の内部はどうなっているのか?
興味津々で歩みを進めると、部屋ごとに独立した各ショップが扉を開け、通行人と思しき人も何人か立ち寄っていく風景を目にした。
こうしてみると、午前の印象とだいぶ違う。

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普通デパートなどの「テナント」では扉という概念がないのだろうけれども、ここは至って古い建物だから、個々に部屋がセパレートされており、扉の施錠も自己責任で行うようだ。
そんな店があるんだなあ。

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2階にはこれまたおしゃれなカフェもやっており、意外や意外、建物のずいぶん奥まったところだというのに地元客で賑わっていた。

さてこの栄町通りには雑貨屋も多く、昨年やってきた時に一度ぶらりと立ち寄った地下にある雑貨店「AMPLOP」にもう一度訪れてみた。

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若い男性オーナーと女性の店員さんが二人で切り盛りされており、昭和初期の年代物をひょっこり入荷してきたりするから見逃せない。

あいにくこの日はオーナーは仕入に出払っておられるようで、気さくな女性店員と話が盛り上がった。

「関西人は初対面でもしょっちゅう話しかけるから迷惑でしょう。」

控えめに言われたが、私としてはむしろその方が性に合っている気がした。

さてこの「AMPLOP」であるが、ショップ自体は地下にあるのにわざわざ遠路はるばる訪れる客も珍しくないという。

というのも、灯台やカモメ、ヒトデを扱った港町風の飾り物の他に、店主の趣向でなかなか珍しいアンティーク品も取り扱ったりしているからだ。

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何気ない置物のように見えるけれども、実はこのいずれもが大正から昭和初期に作られたもので、「日本に数体しかない」といったものだったりするから貴重だ。

今回もおもわず黒猫のセクシーな陶器を買って店を後にした。

 

さて次に向かうは、「Patisserie tooth tooth(パティスリートゥーストゥース)」!

まあ特に女性の読者の中には既にご存知の方もおられるかもしれないが、この店は一階が焼き菓子やケーキをテイクアウトできる店構えとなっており、その脇の階段を上るとレストランになっている、雑誌でもわりと目にする有名店だ。

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実を言うと前日の夜一度訪れてみたのだが、あいにくというかやはりというかすでに閉店していたので、翌日に再度来店しなおしたわけだけれども、この日お目当てだったラグーソースパスタが、つい先日メニュー改定によりなくなってしまっており、とても残念だった。

しかし、代わりに注文したサーモンのクリームパスタがまた納得の御味。
そういえば、昨晩もイタリアンだった、と食べてから思い出す。我ながらよく飽きないものだ・・・。

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つい先ほどミンチカツを平らげたにも関わらず、まあよく食べるなあと自分でも呆れるくらいだ。
いったい今日一日だけでどれほどのカロリーを摂取しているのだろうか。

この店、実のところ半年前に来た時は午前中ほぼ貸切状態だったのだが、今回は満席で15分も待たされた。

関東では、同じレストランが恵比寿にあるようだ。

ホームページによるとそのコンセプトは、

フランス地方料理をベースに、「ワイルド&パワフル」な「がっつん!」料理をベースにした100席ほどある大箱レストランバー。

とのこと。

どんな「がっつん!」と巡り合えるか、帰京したらのぞいてみよう。

 

ところで、洒脱で清潔で開放的なイメージのある港町・神戸。

今回は異人館のある北野方面はスケジュールの都合上見送ったけれども、それでも十分おしゃれな雑貨屋や食べ物屋、ブティックショップなど数々を目にした。
いやはや、ある種の期待を裏切らない魅力が、この都市にあることを再確認したのだった。

ところがその一方で、実はこんな雑多な一面もある。

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元町駅と神戸駅間の線路下をずーっと直線距離で続く「元町高架通商店街」という、人がすれ違うことでいっぱいの手狭な商店街(というより通路)である。

2坪あるのかないのか分からないくらい狭いスペースを個人店が切り盛りしており、そこで売られている商品もなかなか摩訶不思議なものが多い。

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まさか生体販売!?と驚いたのもつかの間、よくよく見ればぬいぐるみである。

エサも含めて作り物だから、そのセンスというか創作欲というか、関西独特のノリがあるように思われる。

「里親募集中!」というのも、まあ、嘘ではないけれど・・。ご丁寧にも「おこさないでね」という注意書きさえある。

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うーん、実にたくましい。女性が鉄骨を担いで閉店作業とは。

人がこれでもかというくらい行きかうこの細い通りこそが、昨晩、半分道に迷いながら夜の飲食街をうろついたあの三宮の駅裏に通じるようだ。

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その脇には言わずとしれた、神戸牛の鉄板焼き屋が軒を連ねる。

「おいしさの炎が半世紀」

なんじゃこりゃ。大阪のそれとはやや趣旨を異にする神戸人ならではの笑いのセンスをうかがわせる。

少し南に下れば神戸港から華やかな遊覧船を一望することができ、また一方六甲側に登ればこじゃれた洋館の立ち並ぶ高級住宅街に出会う。

その真ん中には、先の両者のいずれともイメージの乖離が際立つ、人いきれと汗と食べ物のにおいが充満した不思議な道のりが横たわっている。

神戸という街には、様々な表情があることを知った。

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たったの1泊というほんの短い滞在であったけれども、神戸という街にはいろいろ意表を突かれたなあと思う。

一般的に抱いている洗練されたイメージとはまた別に、ユーモアあふれる商店街のさまざまな看板や置物、アングラチックな高架下商店街、夜の喧噪や奇妙奇天烈な商売など、行ってみて初めて触れる都会のヒダの内側に、確かな感触をつかんだ気がする。

AMPLOPで買った猫の置物を眺めながら、そういえばこの猫は、昨晩のレストランでもらったうちわのローラに似ているなあと、ふと思った。