新緑の北海道!ベストシーズンぶらり紀行(前篇)

旅という文字には、複数の人間が旗を掲げて移動する構図が描かれているという。隊列を組み移動する。古来旅というものは集団的要素の強い類のものだったのかもしれない。

一方この私、15の歳から親元を離れ下宿先であるいは一人屋根の下気ままな生活を十数年繰り返してきたことで、一人でいることは日常の基本単位とも言え、アラスカの北限に森林限界というものがあるのと同様、私の生活圏の局所などは第三者の心というものを豊にしうる肥沃な土壌とは無縁である砂漠でしかない。

といえば何かと聞こえ映えがよいが、こんな旅順でかっこつけても仕方がなく、正直今回ばかりは一人で取材するのがなんとなく寂しかったと認めながらも、安い渡航費をさらに浮かせるべく人生初のLCCにチャレンジすることに無理やり付き合わされたアシスタントのNちゃん、ほんとゴメンナサイ。

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先に旅は幾人かで、と書いた。
毎月札幌と東京を行き来している私にとって、普段StreamTrailのバック1つ、あとは簡単なポーチでも携えて人工的なエアポートをただ一人、決まりきった時刻に決まりきった場所へ向かって歩みを進めるのだが、よくよく考えてもみれば今回のピーチ・アビエーションも決して一人で搭乗しているわけでもなく、200人いれば200通りの予定を抱えた見知らぬ他人同士が乗り合わせた90分間の共同体のようなものである。

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しかしこの共同体。成田空港から新千歳空港まで片道5千円そこらという破格の安さとはいえ、なかなかの狭さだ。人と貨物の区別は実はあまりない。後ろの座席の何某による膝小僧が先ほどから私の背中を小突くようで、一時不快に思いながらもこれは一計と、ちょうど凝りはじめていた腰回りに当たるよう私の垂直尾翼を心持ち傾ける。見事即席マッサージチェア、なんてくすりと笑いながらおもむろに窓の下をのぞくと広大な新緑の大地が目を覆った。

今、北海道がベストシーズンを迎えようとしている。

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新千歳空港から札幌市内まで、車で行けば約45km。高速を使えば50分ほどで市街地に出る。一方JR快速エアポートを使えば37分だから、普段は電車を利用している。都内で利用しているPASMOやSUICAがそのまま使えるから、便利な時代になったものだ。乗車賃は1,000円少々。LCCを安いとみるか、JRを高いとみるか。

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ただしこの電車、新千歳空港で市内へ向けて折り返すため乗車する時は自分で座席を逆向きにしなければならない。たまにこれを知らずに乗っている外国人と居合わせる。今回も意味もなく我々だけ向い合せのボックス席になってしまい、どうしたものかそわつきながら目で合図するにしても、何を誤解したのか豪州あたりから来日したとおぼしき若い女性がしきりと上目づかいにそれに応えてくれる。さらに赤い口元が思惑ありげに緩む。うーん、そうじゃないんだ。

なかば閉口したところで電車は北広島駅に着き、乗り合わせてきた気のいい土地の人が笑いながら座席を元に戻してくれた。その瞬間車内では探しあぐねていたパズルの最後の1ピースが然るべきところに収まるような落ち着きを取り戻し、同時に臆病な私は魅惑の豪州へ旅する片道切符を失った。

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北海道札幌市。人口200万人弱の政令指定都市。10の行政区に分かれ、人や建物が集積する中心部では「南10条西4丁目」といった東西南北で住所が採番される。

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毎年12月から3月にかけて平均気温が氷点下を記録する。冬の積雪を嫌い信号は縦に並ぶ。同じ理由から札幌駅から目貫通りの大通公園に向かって地下街が発達している。
意外に知られていないが、実は女性の方が男性より多い。そしてよく知られたことだが、きれいな女性が多い。道行けば度々御尊顔に眼福賜る。痛み入る。

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新緑と書いた。
4月下旬から5月上旬になると雪解け水が川の水かさを増し、梅と桜が同時に咲く頃、木々は芽吹きはじめ、5月も下れば草木が緑に萌ゆる。
オキナグサ、ヤマブキ、シロヤマブキ、ヤエヤマブキ、マムシグサ、ドイツスズラン、ゴウダソウ、ミミナグサ、ミヤマハコベ、オオヤマフスマ。あるものは遠い昔に目にしたことがあり、またあるものは初めて見るが故に名すら知らない。

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札幌は公園が多い。冬の厳しさを肌身に刻んでいるがためか、この時期市民は植物を愛で、街の至るところに植樹や花壇が風景を彩る。

南区に真駒内という土地がある。1972年に行われた札幌オリンピックの主会場となった真駒内アイスアリーナやオリンピックの選手村などの建物が各地にある。札幌市のベッドタウンの1つとしても知られ、都心の喧噪から離れ安寧な時を刻む。ここに札幌ラーメンの主格に数えられる白樺山荘の本店がある。

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慣れぬ土地で勘を頼りにそれを目指しながら、醸成された真駒内川のほとりを散策しつつ風のにおいと鳥のさえずりにひとときを忘れる。季節外れのモミの木やカエデ、クヌギと平等に緑色の枝葉を広げながら、真っ白な木肌を露わにした白樺が視線を奪う。私のような不埒な男には女性の白い内腿に見えて仕方がない。

白樺山荘の味噌ラーメンは、その見た目とは異なりさらりとした野菜の出汁がくどすぎない味を教えてくれた。

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後編へつづく