縄文杉を訪ねて

午前4時40分の始発のバスに意気揚々と乗り込む。
行先は荒川登山口。
最終目的地は日本を代表する巨樹の縄文杉だ。

そのパワーに触れてみようと一泊二日の強行日程での屋久島訪問。
屋久島を体感するには、やはり二泊三日は必要だというのが一般的であるが、
今回、屋久島在住の方より、一泊二日でも十分に屋久島は癒してくれるとのアドバイスを頂き
この旅程に踏み切った。

屋久島へは鹿児島空港より飛行機で約40分。
あっという間に海の上に浮かぶ原始よりの自然を残す山々の島、屋久島が姿を現す。
まさに「洋上のアルプス」と呼ばれるにふさわしいものだ。
上陸後、できるだけ屋久島を体験しようと、まずはレンタカーを借りることに。
明日の縄文杉登山にできるだけ「足」を残しておくため、
駐車場からのアクセスがいい名所を選定し、島内と巡る。
あせらず、ゆったりと。

夕方まで目いっぱい使っての島内一周し、この日は明日に備え早めの就寝。
早朝3時半、起床。
眠たい目をこすりながら真っ暗闇の中を登山口行のバスに乗るため「屋久島自然館」へ向かう。
というのも3月1日から11月30日まで荒川登山口への車両乗入れは、
山岳部への過剰な車両乗入れによる環境負荷の軽減と混雑緩和のため、終日規制されている。
そのため屋久島自然館から登山口へは公共機関のバスを利用しなくてはいけない。

始発である4時40分のバスに意気揚々と乗り込む。
暖かいバスの中は心地よくすぐに寝ていた。
バスは約30分かけ荒川登山口へ到着。
あまりの寒さに小屋でひとまず朝食を食べてからの出発。
あたりは未だ真っ暗なままだ。

小屋の明かりもなくなり、自分のヘッドライトの明かりのみが頼りの中、トロッコの線路を進む。
ヘッドライトの明かりと水の流れる音以外はほぼ闇である。
トロッコ道は枕木と枕木の幅が歩幅と合えば高低差はなくとても歩きやすいが、
そんな甘い話はなく歩幅に合わない。
自分のものとは違う歩幅で歩き続けるのは異様に歩きにくく疲れるのもである。
トロッコ道には度々橋にも出くわす。
この橋も只者ではなく、しっかりした橋ではあるものの
踏み外すことのできるほど隙間がある。中には手すり?のない線路だけのものも。
しかも川の湿気と谷間を抜ける冷たい風のためか橋は少し凍っていて少し滑る。
慎重に慎重に。
6時ごろになるとようやく空も白みだす。
なんともいえない見事な朝焼けだ。

一時間弱歩き、トロッコ道、橋にも慣れたころ小杉谷小中学校跡がでてくる。
このあたりには林業が盛んだったころは540名の人が住んでいた集落があったようだ。
この先は枕木の上に板が置いてあり格段に歩きやすくなる。
湧き水と休憩できるスペースとログハウス調のきれいなトイレがある。
このトイレ、特筆すべきは、におわないことである。
また、このトイレ、流さないのである。
では、どうするか、、、攪拌すのだ。
その秘密は、トイレの中にある。
トイレの中にはおが屑が敷き詰められている。
そのおが屑とし尿とを攪拌、吸収させ微生物の働きで分解されるようである。

感動のトイレをあとにし、歩を進めると地図にも名前の載る屋久杉、「三代杉」が現れる。
この杉は枯れた初代の杉の上に二代目が生えたという。
そして、現在は三代目で、推定樹齢は350年。初代からは、2700年にもなる。

ここまで歩き出しから約3時間。
ようやくトロッコ道の終点、大株歩道入り口に到着。
ここからは、本格的な登山道になり景色も一変する。
周りは山深くなり大きな杉もとても多くなり、倒木や岩の上には苔が広がり、
深緑に包まれた神秘的な世界が広がっている。
今までの平坦なトロッコ道と違い急な上り坂や、ごろごろした岩の上を歩くことになる。
ところどころ木々の根を守るためボードウォークや木製階段が設置されている。

大株歩道に入りまず出会う巨樹が翁杉だ。
とはいっても2010年に倒木し、現在は根元のみの姿に。
そして、今登山の縄文杉に次ぐハイライト、
大坂城を建てる際、豊臣秀吉の命により伐採されたといわれるウィルソン株だ。
生育していれば、縄文杉を超えて最大になっただろういわれる。
なんと、株内部の柔らかい部分は腐敗し空洞となっており、入ることができる。
内部より外を見る景色はとても不思議な感覚に陥る。
あるポイントから空を見上げるとハートに見えることでも有名である。
大王杉、夫婦杉それぞれの趣を楽しみながらさらに奥へ奥へと進むとなにやらデッキが見えてくる。
そう、ついに縄文杉だ。

デッキへ上ると昔から写真などで見た光景が広がる。
縄文杉の存在感に圧倒される。
太さ、質感、こぶなどすべてが圧巻である。
現在、縄文杉へは根の保護などの理由により近づくことはできず、
数メートル離れた所に設けられたこのウッドデッキから見ることになる。
倒壊の危険性もあるためデッキ上でも正面には立ち入り禁止区域が設けられているのである。
十分にその感動に浸り、縄文杉を後に。

帰り道も行き道とは違う表情を見せる景色を楽しみながら順調に歩くことができ、
14時過ぎに登山口バス停へ戻ってきた。
往復約22キロ、9時間弱の登山となった。

屋久島は月に35日雨が降るとも言われているが登山当日は一日中快晴に恵まれた。
屋久杉はもちろんヤクザル、ヤクシカにも遭遇し、当初の不安だったことがウソのようだ。
今回、かなり限られた時間ではあったが、島民の方のアドバイス通り屋久島の一部に触れられた旅となった。
是非機会を作り次回は時間をかけて滞在したいものだ。