探検家 吉田勝次の足跡 レポート No.1 [世界最大の氷の洞窟群を行く]

2013年夏! 4年に一度開催される国際洞窟会議の活動の一環で、世界一の氷の洞窟群に行けることになり、日本を離れ10,000kmオーストリアのザルツブルクにやってきた。

そこには「アイスリーゼンヴェルト(Eisriesenwelt:巨大な氷の世界)」と名づけられた世界最大の氷の洞窟がある。この氷の洞窟は全長42kmにも及び、その一部は一般にも公開され、観光で訪れることができる。
他にも、「Eiskogelhöhle」「Schwarzmooskogel Eishöhle」「Dachstein-Rieseneishöhle」と呼ばれる洞窟が、観光開発されずに自然のままで残されており、雄大な氷の洞窟たちがオーストリアの地下にはたくさんある。

今回、自然の氷の洞窟を目指して集まったメンバーは総勢11名。アメリカ、ドイツ、オーストリア、ロシア、ギリシャ、イギリス。。。世界各地から洞窟探検家が集まった。
日本人は私一人だけ。今まで日本人が来たことは無く、私が初めてだそうだ。
正直、前人未踏の世界を目指している探検家の私にとっては、すでに知られている洞窟に入ることは優先的な活動ではない。しかし「世界一の氷の洞窟」というネームバリューと、洞窟写真家として、氷の洞窟でどんな写真が撮影できるのか?そんなところに興味を惹かれ、今回の活動に参加することにした。

今回、4つの氷の洞窟を訪れたが、その中でも規模が大きく、代表的な洞窟である「Eiskogelhöhle」での活動報告。
さて、まず私たちは氷の洞窟を目指して、標高1000m近くにある山小屋に向かい、一日かけてたどり着いた。山小屋に到着した日はまずそこで一泊。次の日、山小屋をAM8:00に出発!そこですぐに洞窟にたどり着くわけではなく、さらに険しい石灰岩のクレバスを超えて4時間余り、標高2200mまで一気に登る。
そこでGPSデータを頼りに洞窟の入口を探す、容易には見つからない。何しろ、大きな山は広大な面のようなもの。それに対して洞窟の入口は小さな点。以前行ったことがあり、場所を知っている人でも、見つけだすのに時間がかかる。見通しの悪い山の中で、岩陰、木の陰、いろいろな障害物に阻まれながら、洞窟のある場所を見極めて見つけ出すときには、経験が一助となる。地質、地形。。。ありとあらゆる情報から入口の位置をつかみ取っていきようやく辿り着く。

さあ!ここからが洞窟探検の始まりだ!
標高2200mとは言え、7月のオーストリアは夏です。涼しげな夏の登山の装備から一転して、氷の洞窟へと挑むケイビングスーツと防寒着を着て、さらにハーネスなどの装備を装着する。
いよいよ洞窟の入口から入り、30mほどで一気に気温は氷点下になり、環境は夏から冬に変る。真っ白い息を大量に吐きながら、あたりは白煙が充満したようになり、氷の洞窟と言っても、入口近くはまだ石灰岩が露わな普通の洞窟。顔と手がどんどん冷えていくのを感じながら、縦穴と横穴が複合した形態になっている複雑な洞内を、ロープで安全確保しつつ下へ下へと進んでいく。
奥へ行くほど気温は下がる、ある程度進んだところで氷点下3℃ぐらいに達し、その後はおおよそ同じ気温を保っていた。入洞してから2時間進んだところで、サッカーのコートを2つ作れるくらいの巨大な空間に出た。ここから床が凍り始め、いよいよ、氷の世界の始まりだ。ここで、持ってきたアイゼンを装着。
洞窟探検用の強力なヘッドライトをヘルメットに装着しているが、光の加減で視界が悪くなることもあり、鋭い爪を持ったアイゼンで歩行するだけで危険だ。空間は氷に囲まれて滑りやすく、滑り出せば、斜面を何十メートルも落ちていく。確保無しで、安易に座ることすら命取り。そんな状態で、氷の縦穴をいくつも下降したり、氷の亀裂に入っていったり。。。
ライトに照らし出された氷は薄いブルーに光り、その美しさは自分自身が宝石の中に入り込んだような錯覚を引き起こす。巨大な空間の向こうには、永遠の時間の流れが創造した巨大な氷の彫刻が広がっていた。
どんどん変わっていく地球の芸術作品とも言える造形美が目を楽しませてくれる。洞窟の中では、季節に関わりなく、この氷の彫刻が冷たい美しさを保っている。それは、冬の間に冷気を岩盤が吸収し、夏になって外が30℃を超えた後も、冬の間蓄積した冷気によって洞窟の中は一年を通して氷が融けずに存在するからだ。
長い年月をかけて石灰岩の中に出来た氷の空間!それでも、ここは世界一の氷の洞窟群のまだほんの一部にしかすぎない。

でも感動の時間にゆっくり浸っているヒマはない。。。この美しい世界を、限られた時間で余すことなく撮影することが今回の私の最大の目的だった。
バックパックからカメラと三脚を取り出し、撮影準備!どんどん移動し、撮影しながら進んでいく。息を呑むほどの、このすばらしい世界を自分が撮影する写真でどれだけ伝えることができるのだろうか?そんな思いを胸に、無言でシャッターを押し続けた。
寒さと、気を抜けない空間にいる緊張で疲労が蓄積していくのを感じた。そんなとき頼れるのは自分の体力と精神力!そして信頼できる装備。
いろいろなギアが私の探検を支えてくれますが、中でも一番大切なのは、バックパックだと感じた。カメラなどの撮影機材は非常にデリケート。解けだした氷による水の流れや、天井からの滴下水、洞窟内の高い湿度から機材を守りながら、不安定な洞窟内の絶妙な撮影ポイントまで安全に移動し、持ち運ぶためのバックパックに、私は高い機能性を要求する。その選択を誤ると、精密機械の故障を招き、目的を達成できない結果につながる。何日もかけて挑戦した撮影が、無駄に終わるかどうかを決める、大切な装備なのだ。今回、私が選んだのはストリームトレイルだった。前から気になっていたメーカーで、防水バックを中心に豊富なラインナップがある。その中から今回、セレクトしたのは60リットルのバックバック。
このバックバックは、開閉部をロールしてバックル留めするので、防水性に優れ、内容量に応じてストラップの長さで荷物の大きさを調整でき、中身が不安定になることもない。洞窟のような環境の悪い場所で、更に防水性を高めたければ、荷物を個別に防水パックに入れてから中に入れてパッキングすれば、完璧だ。
カメラ機材を含めた全装備を水から守りながら、安定して運ぶための条件を備えつつ、さらに大きな口で出し入れが早く機動力があるところも気に入った。開閉部の材質がしっかりしていて、中のモノを覗き込みやすく、大きなモノでも出し入れしやすい、私のようなセッカチな性格にはぴったりだ。
また、非常に軽量なことも魅力の1つ。洞窟の中にはいろいろな環境があり、さまざまな地形がある。狭い通路になればほふく前進。岩壁になればロッククライミング。地下川になればキャニオニングやラフティング。完全水没すればダイビング。普通に歩けるところの方が少ないため、できるだけ身軽に動けるように軽量化を図ることも安全確保の手段となる。
さらに、ハードな一日の活動を終えてから車に戻った時、このバックはどんなにドロドロに汚れていても、表面がPVC加工なので丸洗いでき、すばやく乾燥。濡れて汚れた装備をバックの中に入れて、そのまま車に積み込めば、車も汚れず、あと片付けや翌日からの活動がスムーズだ。すばらしい装備は、ハードな探検を楽しくしてくれる相棒だとつくづく思う。

さて!洞窟のレポートに戻りましょう~♪
全ての撮影を終えて完全撤収し、洞窟の出口にたどり着いたのは夜10:00。動き回った身体は熱いけれど、一日中氷点下にさらされた手足は冷え切っている。でも、そんなことより、洞窟の外は大変な状況になっていたのです!嵐のような雨と雷!静寂の洞内から一変して、凄い世界になっていた。
標高2000m以上では木々は少なく、隠れるものが何もありません。雷から身を守る術は運だけ。落雷は目の前を真横に走っていき、滝のような雨と濃い霧が視界を遮り、わずか5m先しか見えない、時々雲が切れて下の様子が一瞬!見え隠れした。
急いで山の装備に着替え、つづら折りで登ってきた岩山を直滑降でまっさかさまに走り滑り下りていきます!見た目には滑落しているようだったでしょう。一心に山小屋を目指して、何度か転倒もした、そんなことに躊躇している余裕はない。この危険な環境から離脱することに全身全霊で立ち向った。

2時間後、ようやく霧の中に山小屋が見えた頃には雷は鳴りやんだ。山小屋の窓の光はとても暖かく見えた。たどり着くと、先に山小屋へ戻っていた仲間たちが、無事を喜び、笑顔で迎えてくれた。温かい食べ物と飲み物で全員の無事を喜び、今見てきたばかりの素晴らしい洞窟の話で盛り上った。
生涯、忘れられない思い出になったことは言うまでもない。