プロトライアルライダーの野本佳章選手からトライアルの試合観戦に招かれた筆者は、初めて訪れる群馬県の山間で悪戦苦闘しながらなんとか試合会場に到着した。
するとそこでは、トライアルを愛してやまない選手たちが集まり、思い思いのスタイルで愛車を楽しげに走らせている光景が待ち受けていたのだった。
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麓の饅頭屋の駐車場に車を止め、徒歩で細い坂を登ると、一気に視界が開け、既にそこには数十台のバイクや車が所狭しと並んでいた。
それと分かる鮮やかなトライアルウェアに身を包んだ人もいる。ここで間違いない。入口付近におられる選手の方々とおぼしき人にあいさつしながら奥に向かって歩くと、ちょうど会場の整備をされている野本選手の後ろ姿が目に入った。
我々に気が付くと「よく場所が分かりましたね」と、破顔の笑顔で迎えて下さった。
青、白、オレンジで合わせた愛車とトライアルウェアとともに、カメラの前に佇む野本選手。背負うのはストリームトレイルのバッグだ。
この会場はトライアル用に私設された環境のようで、すでにいくつかのセクション(採点区間)が設けられている。
起伏の激しい山肌を、わざと岩やコンクリートブロックといった障害物を設置することで、高低差や傾斜を複雑に設定されたコースに造られている。
この日多くの選手たちが愛用していたイタリア製のマシン・BETA。一台100万円を超えるので無案内な筆者は迂闊には触れない。
オンロードのオートバイレースとは異なり、トライアルは速度を競うのではなく、独特のルールの中で減点の少なさを競う競技である。
たいていのマシンにはサドルが付いて無く、タイヤに関しても空気圧を意図的に減圧し、まるでキャタピラのように動作させて吸いつくようなグリップを実現することが特徴的である。
トライアルバイクは、いわばオートバイの基本構造だけを残す形に簡略化・軽量化されたオートバイとも言えるだろう。
基本はオフロード用のマシンであるため、一般的にはナンバーも付いていない。が、この日はなんとナンバーを付けているマシンも見受けられた!これで公道を走るというのも、それはそれで夢のある話だ。
アップダウンの激しい悪路をものともせず、まるで乗馬のように鮮やかに駆け抜ける選手たち。
野本選手はこの日は主催者側として、選手たちの安全監視とコースの維持管理に専念された。
雑木林の中にあるセクションでプレイする選手たち。
素人目からするとどう考えてもオートバイを走らせる環境には思えないのだが、それでも急斜面を駆け上がり、また逆に下りもするわけだから、乗車位置から視界に入る景色を想像するだけで空恐ろしい。
地面に足を付けると減点されるため、絶妙なバランスとテクニックでコースを果敢に攻める選手たちに息を飲んだ。
野本選手が企画するこの「ペコトラ」という大会では、群馬県やお隣の栃木県、新潟県方面の選手たちが集まり、半ば同好会の性格も帯びて個々人が思い思いに走らす試合のようで、中には女性のライダーも見受けられて驚いた。
また今回は例年以上に参加者が多かったらしく、国際A級クラスの選手も参加され、そういった選手は己の力量を試すべく、より高度な技で積極的なプレイに挑戦していた。
レースが終わると和やかな授賞式が開かれ、表彰台に上がる選手たちも、またそれを見守る選手たちも一様に笑顔に包まれていた。
すると選手の中の一人がここで即興のマジックを披露してくれることに!
まさかの展開に興味津々となる選手たち。意外な結末に、会場からドッと笑い声があふれ出た。
写真撮影にも気前よく応えてくださった朗らかな選手のみなさんたち。
レースを終えた吾妻の林では、心地よい風が木々の間を静かに流れていくのであった。