人生初のトライアル観戦!群馬の山中を駆け抜ける!(第一話:初群馬編)

8月9日の早朝は、吸い込まれてしまいそうなさっぱりとした晴天に恵まれた。この日33回目の誕生日を迎えることになった筆者は、自分の誕生日などよりも別のことに前の晩からそわそわと落ち着きがなく、気が付けば予定時刻よりも早く浅い眠りから目を覚ました。

群馬県吾妻郡にある、とある山裾を切り開いた山林で、トライアルというオートバイの競技車両に試乗できる話を、プロトライアルライダーの野本佳章選手からお誘い頂いていたのである。

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「お誘い頂いた」というのは少々語弊があるかもしれない。どちらかというとこちらから「頼み込んだ」に近い話だったのだけれども、野本選手は二つ返事で快諾頂いた。

たまたまこの日は年1回野本選手が自ら開催される「ペコトラ」というトライアルの試合が行われるとのことで、まずはその取材がてら「大会終了後に少々乗らせて下さいよぅ」という、まあなんとも今考えるとずうずうしいお願いだったかもしれない。

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野本選手と初めてお会いしたのは、確か今年の4月のはじめ頃だった。

たまたま別件で自由ヶ丘にあるSTAMPSミーティングルームに足を運んだ際に、マネジメントをされていらっしゃる奥様とお二人でお見えになっており、そこで互いに自己紹介をしたのであるが、その時つい筆者は「あれれぇ、御両人様、ずいぶんと美男&美女ですなぁ」と、どこぞの宿場町の手代のような言葉がつい口をついてしまったことを記憶している。

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野本選手は27歳の甘いマスクの下に、全日本トライアル選手権の最高峰となる国際A級スーパークラス(IAS)の選手という肩書を持つ。

幼い頃からお父上の影響でトライアルを始められ、バイクトライアル(自転車)を歴てトライアル(オートバイ)へ転向。トライアルの選手層にもいくつかのランクがあるが、今はその中で国内最上位のIAS選手として活躍されている。

メディアではあの仮面ライダーのトライアルバイクを担当されているというから、容姿のみならず腕前も超一流である。

自由ヶ丘での初対面の際には「いつか乗りに来てくださいね」というご挨拶を頂いたのだけれども、それを馬鹿正直に杓子定規で受け止めてしまうところがまた筆者の世間ずれしたところでもあるようで、海辺のイベントがここの所続く中で、「そう言えば山となれば野本さんだなあ」という勝手な連想で先のお願いに至った次第である。

 

さて、群馬県吾妻郡である。

たまに姓に「吾妻」を持つ人と出会うと「アヅマです」と言われることが多い気がするのだけれども、この地は「アガツマ」と呼ぶ。古くは上州藩岩櫃城(いわびつじょう)があった地で、戦国時代においては、いわゆる歴男歴女の間でも人気の高い真田家が城主として統治に当たった土地として知られている。

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標高1,000mを超える小野子山、中ノ岳、十二ヶ岳から成り立つ三並山(みなみやま)連山。JR吾妻線に乗っていると、急峻な崖が突如顔を覗かせる。その向こう側には滝川一益が北条氏康に敗れ去り、どさくさに紛れて真田昌幸が奪還した沼田城跡がある。

この辺で歴史のドラマは池波正太郎氏の「真田太平記」に譲るとして、さて神奈川から電車を乗り継ぎ3時間。

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ようやく中之条という駅についた。駅前のずいぶん年期の入ったタクシー会社の事務所で1台だけあったレンタカーを借りることにした。

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木造建ての室内には季節に似つかわしくない備え付けのストーブが置いてあり、長い煙突が部屋の梁伝いに母屋の裏手まで伸びていた。

熊谷や館林といったフェーン現象で知られる街の鼻先を通り過ぎて到着したこの地も、ご多聞に漏れず容赦のない暑気に見舞われていたが、冬は冬でまた底冷えするらしい。

地図には中之条盆地と書かれてある。

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途中道端の蕎麦屋に寄って人生初の十割蕎麦を食べてみた。

最初知らずに口にして、妙にボロボロした食感に驚いたところ、これが噂の十割蕎麦というらしい。蕎麦の香りが豊かである。

行きの電車に同乗していた山登りの服装をした観光客も、きっと今頃はこの上州蕎麦を楽しんでいるに違いない。

 

野本選手に頂いたメモを手掛かりに目的地を探して車を進める。

しかしこれがまた分かりづらいのなんの。というのも個人の方が所有される私林をトライアルのために切り開いたところらしく、厳密な住所を持ち合わせていない山のようだ。

後で聞けばそのオーナーが有名な蕎麦屋の店主というから、群馬では割合、蕎麦とトライアルの相性も良いのかもしれない。

 

案内のヒントになるようわざわざ野本選手が送って下さった動画を頼りに車を進めるものの、気が付けば高山村という文字通りずいぶんな高台まで来てしまい、村人一人も姿が見えず、神隠しにあったのではと焦る。

ハンドルを切り替えしもう一度丘の麓に下りると今度は逆の街道に出てしまい、どうしたものかと心細いまま道のりを走行していると、うまい具合にこれが日光まで通じる「ロマンチック街道」と呼ぶ道であることが判明し、しばらく行った左手に話に聞いていた看板が目に入った。

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「高山トライアルテック」。本日の取材の目的地である。