福山の常識を変えたインテリアショップ「ALGORHYTHM」の足跡

広島県福山市でインテリアショップを手掛ける藤田直史さんに、ご自身の店「ALGORHYTHM」とまちづくりプロジェクト「STOREHOUSE」についてインタビューさせて頂きました。

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コウモリという生き物がいる。鳥の姿をしながら哺乳類に数えられるこの生物は、翼を有しながらも卵から孵化することはなく、生物学上は我々人類と同様に哺乳類として分類される。
広島県福山市。そのコウモリを市章にもつこの都市ほど、異なる2つの都道府県から同じような質量で別々の影響を受けた例は数少ない。

1870年代に行われた廃藩置県により五度に渡る編成を経て今の広島県に収まったものの、その一つ前には岡山県に所属していた史跡を残す。
文化的にも広島市を始めとする県西部に比べどちらかと言えば距離的に近い関西の影響を色濃く受けている。
福山弁は岡山弁と同様に連母音の融合傾向が確認でき、元々この地域にあった備後弁を基礎に成り立った方言であるが、その一方で三河弁が混じっていることがあからさまに岡山弁とは異なる。
ときに安芸地方の方言と混同されることもあるが、これらの違いを県外の者が耳にして判別するには難を要する。

いわば鳥のようでいて獣のような複雑な二面性が、福山という街にはある。
人口46万人、広島県内第二位。今日では港湾機能や陸路環境が評価され、瀬戸内地域に広げられた物流という名の扇の要となっている。

 

そんな福山の地に一風変わった人物がいる。

藤田直史。
家具メーカーを脱サラし、平成19年にインテリアショップ「ALGORHYTHM」を開業。歳は37。
この街では「STOREHOUSE」という毎年恒例の問屋街を活用したまちづくりプロジェクトの仕掛け人として知られている。

storehouse

「もともとね、この企画はそれ自体が私にとって目的格ではないんですよ」

のべ2万人を超す来場実績がありながら、本人の口から発せられた第一声は、意外にも謙虚なものだった。

「この卸町に店を出したときはそれはもうね、人もだれも通らない閑散とした路地みたいでね、周囲の人間からも心配されたりもしました。心配だけならともかくここは文字通り問屋街だから、地元の組合の方々にこれから小売をやります、と言っても最初はあまりいい顔をされなくて」

古くからの慣行に慣れ親しんだ者にとって、まったく新しい商取引が自分たちの庭先で行われることに異物感を感じるのは何もこの街に限ったことではない。
卸町で生業に身を慎む人々からの反応は冷ややかとも言えた。しかし度重なる交渉の末、最後は彼の熱意に軍配があがった。

「このさびれた問屋街を3年後には活気ある街にしてみせる」

家具に惚れ込み、インテリアショップの先駆けである「CONRAN SHOP」に初めて行った時に強烈なパンチを食らったこの男は、まずは根を下ろすと決めたその地を活気あふれるものにすることに賭けた。
人がいないのなら人を集めればいい。卸町内の、昔は市場として栄えた広場。ここで、飲食ではなく、あくまでも小売メインの「マルシェ」を定期的に開催しよう。知り合いや仕事仲間など20社ほどを集め、「STOREHOUSE」プロジェクトはスタートした。

「最初は右も左もよく分からなくてね、勢いあまって問屋街を盛り上げるなんて言ったものの、それこそ自分でタブロイドを作って街中に配り、什器を組み立てては会場設営したりもした。
そんなこんなでなんとか第一回目に2千人の来場者数があってね、なんとなく手応えを感じることができました。
その後徐々に、地元のデザイン会社が手伝ってくれるようになり、いくつかの企業にもスポンサーになって頂いて、気が付けば街全体がSTOREHOUSEを押し上げてくれて。
地元の大学や高校の吹奏楽部の方々に演奏してもらったり、地元バス会社からの支援を頂いて、福山駅から卸町への臨時バスも出るようになりました」

見えない力学というのだろうか。一個の塊の反動に端を発した大きな車輪の回転を彷彿させる。

「店の周りに人がいないから人を呼ぶ仕組みを考える。これがSTOREHOUSEの発起理由になるのですが、今振り返ると、何か自分の中で事をなそうとするときには『動機』が重要なんじゃないかなと思います。
そして動機を得たら時流をつくる。人にしても物にしても、流れっていうのが大事だと思うんですよ。人間はひとりの力に限界がある。だからこそ人を巻き込んでいく、街の人たちが協力してくれる、そんな良いストリームができたらいろんな反応が生じ始めます。
STOREHOUSEを毎年楽しみにして下さっている人もいて、開催時期が近づくとよく声をかけて下さるわけですよ。私も開催中は仕事そっちのけになるくらい全身全霊をかける。その結果、うちの家具に興味をもって下さる方が店にもいらっしゃれば、本当に嬉しいことだと思います」

藤田の心意気に呼応してか、卸町にも小売店舗が並び始め、通りに活気が増すようになった。
だが彼は言う、本当のゴールはその先にあると。

「やはり根は商売人です。家具を売ることが経営者として求められます。
ただ自分たちだけが利潤を得るやり方は正しくないな、と。この街あってのALGORHYTHMだから、まずは土地の人々に喜ばれる店でありたいと思います。
“おかげ様で”という姿勢はずっと忘れたくないですね」

若き青年実業家の真摯な瞳の奥に、福山市の未来の発芽を垣間見た気がした。

 

ALGO外観

ALGORHYTHM
〒721-0954 広島県福山市卸町10-11
TEL 084-971-6403
MAIL shop@algorhythm.co.jp
www.algorhythm.co.jp
storehouse-fukuyama.com